昨年11月、アークのオリバー代表は、岩手県を訪れ、地元の保健所と協力して活動するグループ「いのちの会」のことを知りました。保健所の役割は重要です――現在のところ、全国的な動物行政組織はこれ以外にないからです。保健所が従来の方針を一大転換し、手法の改革に成功すれば、直ちに多くの動物に効果が及ぶのです。逆に、現在のやり方を続ける限り、悲惨な結果を招くのは確実でしょう。
動物愛護グループのホームページをちよっとのぞいてみると、「多頭飼育」とか「ホーディング」という表現が頻出していることに気づくはずです。2002年12月、アークは、突如として、悲惨な状況にある90頭以上の犬を預かるはめになりました。彼らのために費やされる時間、努力、資金などはたいへんなものでした。さらに、スタッフには情緒面でのストレスも大きくのしかかりました。この亀岡のホーディング事件も、捕獲して殺す…(しかも、苦痛を与える非人道的な方法で、)という現在の保健所の方針が直接的にもたらした結果と言えます。
保健所に収容することは、すなわち、ガス室に送り込むことである…これは常識ですが、このようにして殺される犬猫はひどく苦しみます。具体的な処分法について知識のある人は少なくても、保健所から無事に“生還する”動物は殆どないことは誰でも知っています。それだからこそ、何らかの理由でペットの世話を続けられなくなった人は、むずかしい立場に置かれ、必死で助けを求めるのです。エリザベス・オリバー代表はよく言うのですが、アークでいちばんたいへんな仕事は電話での応対だと……なぜでしょうか?毎日、助けを求めて電話をかけてくる大勢の人たちを拒絶しなければならないからです。彼らに「あなたの犬/猫を引き取ることはできません」と言うのは、どんなにつらいことか。電話してくる人は、アークを最後の頼みの綱と考えています。断わられたが最後、あとは保健所しか残っていません。すべての愛護団体はこの問題にきちんと対処すべきです。動物が殺到するのを恐れて、住所などの連絡先を公表しないグループも数多くありますが、こういうところからホーディング問題が発生するのではないでしょうか。動物好きで、見殺しにできない個人が、動物を引き受けようとします――保健所送りだけは避けようと必死の思いで。しかし、最初は助けたい一心で始めても、たちまち、逆の結果になります。典型的な例が亀岡の事件でした。また、古くからのアーク会員は、天理の事件を覚えているでしょう。地所持ちの老人が、面倒を見られないとか、いやになってしまった飼い主から犬を引き取り始めたのですが、その結末は……国際的な圧力を受けて、やっと警察が踏み込んだときには、敷地内に1万頭以上の死体が残されていました。ひとりのお年寄りがなぜこれほど多数の犬を集めることが出来たのでしょうか?「不要な」動物を引き受けてくれる「どこか」――保健所以外の場所――を必死で求めている人たちの間で、たちまち、うわさが広まったのです。
保健所の多くは、持ち込まれた動物を殺すのに二酸化炭素ガスを使っています。アメリカのAVMA(全米獣医学協会)は、二酸化炭素ガス使用を制限し、一定の厳しい条件下でしか認めておらず、この方法の欠点を列挙しています。「ガスを注入し始めると、中でバタンバタン暴れたりもがいたりしている様子があるし、叫び声も聞こえます。でも、自分が入ったわけではないので、本当に苦しいのかどうか証明できません。」――これは、児玉小枝さんが書かれた記事の保健所職員の言葉です。米国ジョージア州の動物管理施設でも二酸化炭素ガスを使っていましたが、犬を窒息死させる映像を見た町長がガス殺を直ちにやめるように命令を出しました。過去5年間で、アメリカの幾つかの都市がガス室を閉鎖し、致死注射薬のペンタフェノバルビタールに切り替えました。「私たちがガスを使うのは、それが動物にとって最も安楽に死ねると聞かされているからです。」――ある保健所職員は、亀岡のホーディング事件を取材した読売新聞の記者にこう言いました。アメリカの愛護団体の多くが指摘するように、動物管理局で二酸化炭素ガスが広く使われている理由は「簡単だから」なのです。ある所長が言うには、ガス殺の方が職員にとって心理的に楽なのだとか……しかし、「殺すことが簡単であっていいはずはない」と動物愛護団体は反論しています。安楽死に関するAVMAの報告書は「致死注射」を最も苦痛を与えない人道的手段と位置づけており、米国の進歩的な動物管理施設ではこれを採用し始めています。ただし、実施にあたっては、公認の獣医師が細心の注意を払って投与する必要があります。ガスによる窒息死は動物にとって最も安楽な死に方ではなく、「人間の側」から見て最も安易で楽な方法だということ。保健所も、今や、ガスの代わりに致死注射を導入すべき時が来ているのではないでしょうか。
日本の保健所について今後の見通しを示す前に、私が米国のある施設で経験したことを伝えたいと思います。2002年夏、私はWest Los Angeles Animal Care and Control(西ロサンジェルス動物保護管理施設)を訪れる機会を得ました。マービン・マッキー博士の「“少ない料金”で“多くの動物”に避妊去勢手術をする診療所」(数ヶ所)を見学するため、私はロスに滞在していたのですが、博士から、動物保護管理施設を見学するようにすすめられました――彼はそこに避妊去勢クリニックを設置しようと計画していたのです。カリフォルニア州の法律では、州の施設から里子に出るすべての犬猫は必ず避妊去勢手術を済ませておくことが義務づけられています。私は、そこで見聞きしたことに強い印象を受けました。「動物の“ケア”とコントロール」という施設の名称自体が実態を表わしていると言えるでしょう。パトリシア・ケロッグ所長は施設全体を案内してくれました。持ち込まれる動物は2週間ここで世話されるとのこと。すべての動物は健康診断と、必要なら、予防接種を受けます。動物をもらい受けたいと思う人が見に来られるように、たいていの施設は午後7時まで、さらに、土曜日は夜間も、開いています。私は、そこで職員とともに働くボランティアにも会いました。ロサンゼルスは、従来のガス殺をやめて、致死注射だけを使用しています。飼えなくなったペットを連れて来た市民に職員とボランティアが面接し、行動上の問題なのか、それとも、金銭的問題なのか…など手放す理由を聞く応対の仕方にも感心しました。この施設には、不妊手術代を払えない人のための援助制度もあります。管理施設ながら、職員が動物に対して親身な心配りを持っていると感じました。彼らは、動物を救うために最善の努力をしています。それが、今度は、地元のボランティアを勇気づけて、支援活動に駆りたてるのでしょう。
“no-kill”(殺さない)方針を目指す都市は全米に多数ありますが、ロサンジェルスもその一つです。「殺さない」とは、健康で、養子縁組の可能な動物を管理局が処分することはないという意味。健康で、里親募集に適した動物は全部リホームを成功させます。この目標を掲げる都市は、積極的な避妊去勢計画と「里親さがし」のイベントを推進しています。住民も、施設に対して支援を惜しみません。マイアミ、バージニア州リッチモンド、テキサス州オースティン、サンフランシスコなどは「殺さない」都市です。これらの都市が動物を殺すのをやめたいと宣言したとき、人々はこの決定を支持しました。多くの都市で、市民は、このプロジェクト支援のためには増税もやむを得ないと意志表示しました。動物を殺すためではなく、救うために金を使う方が有意義だと認めたのです。今や、“no-kill” 運動は全米で大きな広がりをみせています。
日本の保健所には多くの改革が必要です。今こそ、私たちは、市民として、また、動物を愛する者として、声を大にして訴えようではありませんか。この記事の冒頭で述べたように、全国規模の動物行政組織は保健所以外にありません。その改革と変化こそが、日本中の動物たちの運命を左右する重要な役割を担っているのです。

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