ショーウィンドウの犬はおいくら?

最近の日本で歓迎すべきニュースは、多くのペットショップとブリーダーが廃業する傾向にあること。もっとも、残念ながらその原因は消費者の意識が向上して、こういう所から欠陥動物を買わなくなったためというよりは、全体的にますます深刻化する不景気のせいなのですが。日本人はどうしてペットショップで動物を買うのでしょう?

答はそれに代る入手場所がほとんどないし、人々は他の商品と同様にペットも商店でしか求められないと考えているからです。自動車やテレビのように、ペットもタイプ、色、ブランド、値段によって選ぶものと思っているのです。「この子たちはどこから来るのだろう?」――ずらりと並んだガラスケースの中のかわいい子犬を目の前にして疑問を抱く人はほとんどいません。

日本には2種類のブリーダーがいます。「(品種を保持育成する)本来のブリーダー」と「繁殖屋」です。大部分は後者に属します。本物のブリーダーは自分たちの飼育動物に誇りを持っているので、繁殖にあたっては最も優秀な血統種を選び、しかも年に1回以上同じ雌に子供を産ませないよう、また、若過ぎる動物を避けるように注意を払います。生まれた子犬はできるだけ長く母親のもとに置いて、充分な免疫力をつけさせ、社会性も学べるように配慮します。飼い主になる人を厳しく選別し、生後2か月に満たない子犬を手放すようなことは絶対にありません。

一方、繁殖屋というのは、動物を殖やすことを金儲けビジネスにしている連中です。親は促成飼育された「繁殖マシーン」に他ならず、母親としてまだ完全に成熟しきっていない最初の発情期に子供を産ませることも珍しくなく、しかも、できるだけ何回も出産させるのです。その結果、これらの動物は4〜5歳頃には健康を害してボロボロになります。まるで15歳の高齢であるかのように口や歯が衰え、体も骨と皮ばかりにやせてしまいます。狭いケージに入れられ、運動も殆どしないし、日光にも新鮮な空気にも当たらないため、筋肉が発達せず、ひどい栄養失調にかかります。その挙句、子供を産めなくなると廃棄されてしまうのです。

こういう「繁殖工場」すなわち「パピーミル(子犬製造所)」は、大体が人目につかない所にあって、田舎の荒れはてた建物だったりします。衛生状態はあきれるほど悪く、動物たちの多くはひどい皮膚疾患や病気にかかっています。儲け第一主義ですから、治療のためにムダ金を使うはずなどありません。繁殖に役立たなかったり、うまく成育しない動物は、使い捨てにされます。

しかし、ここで生まれた子犬たちには、さらに苛酷な運命が待っています。繁殖屋は、同腹の子犬5〜6匹のうち、いちばん良い雌雄を将来の交配用に確保します。友人や得意客に売り渡すこともあります。虚弱で、欠陥や障害のある「残りもの」は競売にかけられ、群がるペットショップ経営者の手に渡るのです。こうして、子犬たちはペットショップに移され、だまされやすい客を待つことになります。いたいけな幼犬が生後数週間のうちに経験するストレスがどれほどのものか想像してみて下さい。あまりにも早く、生まれてわずかひと月ほどで母親から引き離され、ケージに入れられ、(例えば、九州から東京まで)飛行機で運ばれ、満員の競売場でものすごい騒音にさらされます。(遠方まで行く場合、例えば店が大阪にあるとすると)もう一度飛行機に積まれ、今度はガラスケースに入れられて、じろじろ物色する客の視線にさらされます。誰かに買われて新しい家に連れて行かれても、知らない人たちと環境に慣れなくてはならないのです。ストレスから命を縮めるのも無理のないことでしょう。免疫力を持たない子犬は数日のうちに発病します。ぐったりして、食欲がなく、血のまじった下痢便をします。心配した飼い主が病院に連れて行き、点滴や、ありとあらゆる治療が施されます。助かることもあれば、駄目な場合もあります。どちらにせよ、かかる費用はたいへんなもの。死んでしまった場合、飼い主はペットショップに文句を言いに行くでしょう。しかし、動物にはテレビのように保証書がないことに今更ながら気づくのです。ふつう、店側は返金を拒否しますが、客が強く主張すれば、替わりの犬をくれることもあります。最初の犬が何とか生き延びたとしても、身体的に虚弱で、生涯にわたって、精神的にも悪影響が残るものです。

人々がどうして素性の疑わしい子犬を手に入れるために喜んで20万円も払うのか、とても信じられないことです。母親を見ることも、ブリーダーに会うこともできず、子犬がどこで生まれたかさえわからず、予防接種済みの証明書も、遺伝的異常がないという獣医師の保証も健康証明書もありません。誇らしげに手にしている血統書も偽物だったりするのです。消費者が賢くならない限り、ブリーディング産業が今後も幅をきかせることに変わりないでしょう。

他の多くの国と同様、英国のペットショップは、今では犬猫を扱っていません。買えるのはペット用の食品と日用品だけで、その他は、ウサギやハムスターのような小動物を売る場合もあります。ペットショップの子犬は「パピーミル」や「工場」から来ており、この恐ろしい商売をやめさせるには、この種の店をボイコットする以外にないことを人々はよく知っているのです。優秀な血統種がほしければ、信用の置けるブリーダーの所に行きます。ペット用の犬がほしい場合は、シェルターを訪れます。特定の犬種だけを扱うシェルターもあります(例えば、ゴールデンレトリーバーとか、ダルメシアン……など)。

残念ながら、英国にも悪徳ブリーダーはいます。「パピーミル」を経営し、お粗末な血統の犬にも喜んで大金を払ってくれる客を相手にする輩です。もはや英国内にマーケットがないとすれば、行き着く先はどこか? おわかりでしょう?